蝶のゆくえ 橋本治

読んでいる間、ずっと不安で落ち着かない気持ちの短編集。なんなんだ。社会面の事件記事になるような出来事もあれば、日常の、当事者にとっては大事、また本当に日常の暮らしが、切ないまでの現実感をもって迫ってくる。ホラーだ。ところで、タイトル『蝶のゆくえ』はどういう意味でついたのか。▽「ふらんだーすの犬」。「親」になってはいけないのだが、淡々としたタッチがありふれた人物が引き起こしかねない悲劇であることを窺わせる。▽「ごはん」。佳作だが、知勢子は存在の意味がよくわからない。晶菜と幸月だけの方がすっきりするのでは。▽「ほおずき」。わからん。▽「浅茅が宿」。ずっと「夫」を待っていたのだ。そのことに気付くこともなく。▽「金魚」。ここまで持って回った設定にする意味は?大学教授や広告代理店に恨みでも?生態はおもしろいが。▽「白菜」。これもいい。「故郷」を持たない女性が、老母のけがをきっかけに故郷獲得だ。しかし、この手の小説を読むと、さすがに橋本治は名手と思う。

蝶のゆくえ

蝶のゆくえ