しばしばルソーの言葉「人民は絶対に腐敗させられないが、ときに欺かれることがある。人民が間違っていることを望むように見えるのは、そのような場合だけである」(『社会契約論』)が引用される。本書で主張されていることは、九条・文化国家・
地方自治について、主権原理の理解と
立憲主義の伝統から基本用語(国家・主権・代表・
地方自治の本旨等)の解釈を厳密に行うことの重要性を説く。▼例えば、軍隊を
憲法事項とするのは外見的
立憲主義市民
憲法ですら行っていたことであるし、
国民主権を
人民主権的に解すれば、
憲法が明示的に委任していないことを行政府ができるわけもなく、現行
憲法下で
自衛隊を保持できるはずもない、ということである。さらに
ソ連の崩壊・
財政赤字に苦しむ
アメリカ及び
発展途上国を例に、九条の現代的意義(「必然性」という言葉で、個人・民族・人類が人間らしく生きようとするならば、九条を国内・国際社会の実効的なルールにするほかはない)を説く。▼
地方自治についても、充実した
地方自治が
憲法的な要請である理由として、特別な章立てを挙げているうえ、中央集権では、国会議員が国民全体の代表であると言いながら利益誘導・構造
汚職につながる弊害を指摘している。このことは、この本では明示されていないが、著者の主張である
人民主権=国会議員は
有権者の命令的委任を受け、
有権者によるリコールもあり得る=とする体制のためには欠かせない点であろう(中央集権のまま命令的委任をすれば、より利益誘導になるのは目に見えている)。▼国立大学の
独立行政法人化は、確かに問題が多々ありそうだ。トップ30を優遇し、いわば他を切り捨てる、というのも。たぶん問題のスタートには、大学レジャーランドという印象から大学教育に対する絶望と大学人に対する嫉視があるのかもしれないけれど。▼これらの点を踏まえて、
憲法学習が必要であり、国民は自動的に主権者となるのではなく、皇太子が
帝王学を厳しく仕込まれるように主権者学が必要であるのだが、学界はこれまで今ひとつ積極的でなく、結果として
憲法がわからない、という国民が増えている、よく知っている国民は
改憲に反対・よく知らない国民は
改憲に賛成(
北海道新聞95年4月の
世論調査)というデータを紹介する。これについては、どうだろう、
岩波新書や岩波のブックレットを筆頭にかなり
憲法についての一般書もあるし、
土井たか子風「全ての善は
憲法から発する」的熱心な方々もいるし、朝日を筆頭に護憲論が読売を代表的に
改憲論が大好きなマスコミもいて、市民が
憲法学習をしようと思えば決して難しい状況でもないような印象があるのだけれど。