昨日の同志 宮本顕治へ 袴田里見 新潮社

もちろん「スパイ査問事件」にしても、そうした権力の弾圧が最も問題で糾弾されるべきではあるのだが、やはりどうしても明白な敵よりも身近な人間に裏切られた傷は大きく、転向やら非難の応酬やらになるのであろう。この本に出てくる共産党の欠陥(赤旗売上至上主義)は、確かに革命組織にとって死活的に重要な機関紙、というよりは、部数拡大が目的化している印象が現在の共産党にも感じられる。また、宮本が唐突に打ち出し混乱させたと批判されている「自治奉仕者論」は、自分も直接、社会主義協会派系の活動家から、「助かった。こちら=社会党左派=に労働者を引き戻せた」との打ち明け話を聞かされたことがある。正森成二の批判など、現在にも通じるのでは。野坂のスパイ疑惑については、少なくとも山本懸蔵については、『闇の男』で示されたように、旧ソ連の崩壊で明らかになった文書で証明されてしまったことになる。