日露戦争史 横手慎二

日露戦争史 - 20世紀最初の大国間戦争 (中公新書)

日露戦争史 - 20世紀最初の大国間戦争 (中公新書)

いくつかの書評でも触れられているように、キーワードの一つが「セキュリティ・ジレンマ」。日本とロシアとは外交的に相手を正しく見通し戦争に至ったのではなく、誤解や錯覚の積み重ねだったようだ。ロシアが満州に入ったことが、日本が朝鮮を確保しようとするとロシアは満州を脅かされると考え、日本は日本で戦争以外に有効な解決策を見出せなかった。ロシアの最強硬派も満州遼東半島の確保を考えていたのであって韓国までは考えていなかったのだ。シベリア鉄道が完成すれば輸送力が大きく高まるとその前に戦争を挑んだ日本だが、工事の完成状況も正確なところは戦後にわかったこと。ロシアの方も、日本が本気で戦争を覚悟しているとは考えていなかった。また、講和では、はじめから日本は賠償も領土もあきらめていて、南樺太の確保は小村の粘りが生んだ外交上の勝利と政府は考えていた。当時は、戦前、戦中、陸軍が政府と離れたところで戦争の決意をしたり線化を拡大しようとはしたが、概ね、政府と軍とが協力して遂行したと言えそうだ。これは、維新の元勲が政府・軍双方に残っていて人的結びつきがあって可能だったのだろうか。戦後、ロシアは、なぜ負けたか、詳細な戦史を残したが、日本は公式的であまり学ぼうとしなかった。