逸脱の日本中世 細川涼一

逸脱の日本中世 (ちくま学芸文庫)

逸脱の日本中世 (ちくま学芸文庫)

主として謡曲をテーマに中世における「くるい」「倒錯」を論じている。▼第2章「中世寺院の稚児と男色」が出色か。少年愛も、例えば「花月」は、天狗ではなく人買いにさらわれしかも清水寺の門前の男は少年売春のマネージャー、生き別れた息子として引き取る僧は、実は男色の対象として買い取った、という解釈に「耽美化されたものではない歴史の冷厳な事実」としての暗黒面を示す。尋尊に愛され大児(おおちご)として26歳まで過ごし28歳で自殺した愛満丸は、賎民身分出身の彼が身分脱出の唯一の手段であった稚児でいられなくなった「必ず敗れると決まっていた時間との闘い」の末である、と位置付けられる。▼第1章「中世の狂気・物狂い」第6章「白拍子の男装・能の女装」は、「物着」によって憑依する、トランスジェンダーする、という表現▼第7章「二人連れの女性芸能者」は、2人で旅する意味として、片方が倒れたときに成仏・往生を見定める役、目的と本拠のある旅であることを示していて、一人旅は「くるい」の表現としている。