大本営参謀の情報戦記 堀栄三

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)

参謀本部の情報部門が人数・体制の面で、主敵がソ連、という状況からようやくアメリカに舵を切ったのが戦争も後半には入ってから、というあたり、日本官僚制の鈍重さは救いようがない。そして、海軍の台湾沖航空戦の幻の戦果に幻惑された、ルソンかマニラかの方面軍と大本営との対立、広島への原爆機を後一歩で捕捉できた、というエピソードは、まさに情報・態勢の運用により天と地の差が結果として生じる、という実例・教訓を日本は血で購ったといえる。そしてそれを全く生かし切れていなかったことは、著者の陸上自衛隊時代・西ドイツ防衛駐在官の体験で示されている。著者のような人物が戦後長い間沈黙を守っていたのは、人間としてすばらしいことだが、日本国としてはやはり損失だったのでは。