日本人の病歴 立川昭二

病気は個人的なものだが例えば個人がかかった大病や持病がその人の性格や人生に大きく影響を及ぼすように、ある地域で集団的に体験した病気はその民族や国家の歴史・ものの考え方に影響を及ぼす、という立場から、記録に残された古代から日本人を苦しめてきた病気を紹介している。▽梅毒の伝来は鉄砲伝来に30年先立っていた。▽梅毒は沖縄南方ルートで入ってきたが、痘瘡は朝鮮半島ルートと、日本と海外との窓口の位置を反映して西から伝播した。▽強い免疫をもつ痘瘡をヨーロッパを襲ったペストと比較し、「かつて深刻なペスト禍を体験したヨーロッパ人は疾病に対してきわめて過敏であり、病因や病理をきびしく検証していく。・・ふるくから痘瘡にしたしんできた日本人は、痘瘡による大量死の恐怖感が希薄であり、むしろ痘瘡の免疫性になれあってきた」と。▽精神病が、古代の「共同体との違和による狂れ(たぶれ)」、中世は「超自然的存在の憑依による物狂い(ものぐるい)」、近世は「気違い(きちがい)で人と人との間にある気の違い、対人関係における違和感」としてとらえられ、「乱心・乱気」のように精神の乱れととらえられるようになる。それにしてもある過去帳の研究で、「乱心・狂気」が死因の7位を占め、8位が自殺でその20%が精神異常とは。江戸時代の農村部で相当の精神病があったのか。