脳と仮想 茂木健一郎

脳と仮想

脳と仮想

物質としての脳になぜ心が宿るのか、という疑問と、人間が体験することはすべて、脳の中1千億のニューロン活動によって引き起こされる「脳内現象」である、という確認から始まる。
▽『坊っちゃん』の登場人物で、実は赤シャツが漱石だと、阿部謹也が書いていると。赤シャツがマドンナをうらなり君から略奪していくエピソードは、『こころ』でも繰り返されるパターンである。(「第三章 生きること、仮想すること」)
▽目の前のコップをつかむことで、資格と触覚の情報が一致する。複数の感覚のモダリティから得られる情報が一致するということが、現実感を支える。一致しないものを「仮想」と呼んでいる。三島由紀夫が『小説とは何か』で柳田国男の『遠野物語』を絶賛する。(「第四章 安全基地としての現実」)
▽幼女のサンタクロースはいるのか、という問い。サンタクロースは仮想としてしか十全には存在しない。必ずプレゼントを持って来るとは限らない。いい子じゃないとサンタさんが来てくれないよ、と言われる時、子供の心の中に生まれる不安こそがサンタクロースという仮想の大切な要素。(「序章 サンタクロースは存在するか」「第六章 他者という仮想」)
▽夢の内容をある程度コントロールできる「明晰夢」という特別な状態がある。テレビゲームの理想型は、明晰夢を見ることにどんどん近づいていくのだろう。(「第五章 新たな仮想の世界を探求すること」)