鳥獣戯話/小説平家 花田清輝

鳥獣戯話・小説平家 (講談社文芸文庫)

鳥獣戯話・小説平家 (講談社文芸文庫)

圧倒的な知性と教養に弾き飛ばされかねない、そんな感じ。
▽「鳥獣戯話」は、近代人であった武田信虎が信玄による追放後、将軍の御伽衆となって信長包囲網を作ったり、ずくひきを演じたりと皮肉っぽい大活躍。それにしても、「カルモナ書簡集」が偽書とは本当に人が悪い(最後の「作家案内」で「逍遥軒記」とともに指摘)。そんな興味深い人物がいたのか、と思わず『国史大辞典』を開いてしまった。
▽「小説平家」にいたっては、平家物語の登場人物の中では特に魅力的な脇役である大夫坊覚明を平家の作者に擬し(「冠者伝」)、それを海野小太郎という信濃の武士出身として息子をして清水義高を匿ったり(「霊異記」)、舎利を盗み出したり(「御舎利」)と、まさに見てきたように生き生きと活躍する。書き方がエッセイ風なのでいかにも本当くさい。「冠者伝」の最後、仏御前のボーイッシュな魅力を伝えるあたり、白眉と言っていい件と思うが、続く傀儡目代の部分は、ある程度有名な逸話だから、だまされなかった。それにしても、すごい本を読んでしまった。一番は「大秘事」か。この中に出てくる、後一条院の賽に位を与えた話は、本当にあるのかしらん。