語られなかった皇族たちの真実 竹田恒泰

要は、男系が絶えそうになったら宮家の男が内親王と結婚して皇位を継いできたのが伝統であり、伝統はそれ自体変えてはならないのであり、まだ何十年も時間があるのだ、ということだそうな。いくつか疑問点、著者の誤解していると思われる点、わざと触れないか誤魔化している点を。
継体天皇が男系でつながっているのが通説、というのは本当かどうか知らんが、安閑・宣化朝と欽明朝が並存している時期についてはどうか。
②女帝はすべて男系に渡すまでのつなぎ、として孝謙天皇を弟で庶系の安積親王が安全に皇位を継承するまでの云々としているが、藤原氏が政権を握っている状況で全くありえない。誰の説だ?孝謙に何かあれば光明皇后の即位の可能性のほうが高いとする学者もいる(講談社『日本の歴史04』)くらいなのに。
③女帝は月経時に神事ができないし、出産時に国務ができないからふさわしくない、というのは何をかいわんや。天皇に公的に期待されているのは神主ではない。神事は全くの私事であり、政教分離原則から言っても大前提であることを全く無邪気に理解していない。出産時云々は、まさにそうした事態のために摂政が置かれるのだ。
④戦争中、皇族は弟宮を除いて天皇と会えず、影響力を行使できなかったが、戦後は積極的に軍隊を説得し、平穏な占領につなげたと皇族の功績を強調しているが、ちょっと待った。陸軍参謀総長や海軍軍令部総長を長く務めていたのは皇族ではなかったのか。天皇に会わなくとも、十分「開戦に向けて」影響力を行使しているではないか。「皇族」とひとくくりにして都合よくいいとこどりしてはいけない。
⑤「軍事参事官」という言葉がしばしば出てくるが、軍事「参議」官の誤り。単なる高級役人である参事官と間違えるようなところに、実に浅薄な知識を前提とした論であることが、はしなくもあらわれている。