中南米日系人の強制連行

録画しておいたNHKBS『祖国を奪われた人々』のドキュメンタリーを見る。太平洋戦争中、アメリカ国内の日系人が抑留されたことは有名だが、アメリカ国外の中南米諸国の日系人アメリカの要請(と、援助との引き換え、経済的に裕福な日系人への反発)により、大量にアメリカへ追放されてそのアメリカが「不法入国」!の罪名で抑留。
その数は13カ国・2,264人にのぼる(なぜかブラジルやアルゼンチンはない)が、番組では全体の8割・1,799人を追放したペルーの日系人を取材している。抑留された日系人は、アジアで日本に抑留されたアメリカ人との捕虜交換の手段にまで使われる。ゴアで交換された後、比較的若い121人は、日本占領下のフィリピンで、スペイン語に目をつけた軍により占領政策への協力を求められる。かろうじて日本に着いた人たちも、ペルーでの財産を全て失い、よそ者に冷たい日本社会で戦争末期の帰国で、たいへんな苦労をした。
最もあきれたのは、戦後、日本への送還を逃れるために徴兵に応じたにもかかわらず、不法入国を理由にアメリカ市民権を10年以上も認められなかった、という話。勝手に連れて来て逮捕、徴兵するだけでも、非常識なずうずうしさなのに。
ラストで、当時の在ペルーのアメリカ大使館で逮捕・連行・抑留の指揮をとったジョン・K・エマーソンなる人物が、連行は全く根拠のないもので、真珠湾奇襲を行った日本はどんな不条理も実行しうるように思われたとして、自責の念を手記に記していることが救いか。
祖父の足跡を辿る三世の女性の話は、ドキュメンタリーの縦軸にしようというのだろう、よくある手法だが、構成が拙劣なのか祖父が上記の日系人の苦難を表現するにはやや荷が勝ちすぎたのか、わざとらし感があり効果をあげていない。それでも番組の伝える事実の重みは大きい。総合テレビでも放送すべきと思う。
戦争中の日系ペルー人というと、逢坂剛のイベリアシリーズの主役・帝国陸軍のスパイ北斗昭平である。1940年にリマで日系人に対する大規模暴動、1942年2月の日系人逮捕命令という事態は、スペイン国内で、日系ペルー国民としてのアメリカ情報機関による逮捕にある意味「正当性」を与える要素だと思うのだが、小説に出てきただろうか。