内部告発と公益通報 櫻井稔

内部告発と公益通報―会社のためか、社会のためか (中公新書)

内部告発と公益通報―会社のためか、社会のためか (中公新書)

ことし4月から施行された法律・公益通報者保護法に基づき、密告と内部通報の違いと、どうしても暗いイメージの伴う内部告発に「公益通報」というプラスのイメージを持つ言葉を創った意義をまずは説く。そして、法が労働者や派遣労働者・取引先企業労働者のみを保護対象とし、取引先企業そのものを保護対象としなかった(雪印食品の偽装事件では、まさに取引先企業が内部告発を行った)点をどう考えるべきか、ていねいに論じて示唆に富む。特に、実際に守ることが不可能な法律、例えば道路交通法労働基準法などは、結局、タテマエとホンネの使い分けを生み、真のコンプライアンスのを定着に困難にしていること(極端は憲法9条か。道路交通法の速度規制と同様、危険喚起、という意義で結局は守れない崇高な理想が実定法的な表現で存在している)、「義憤産業」大流行の中、義憤だけでは物事は前に進まない。絶対安全といった虚構とその隙間に巣食う裁量行政を排し、硬直的な予算制度を改める。ここまでは諸手を挙げて賛成だ。その後に続く、だから税金を自分で納める制度をつくって「公民」の基盤にしなければ、というのはどうか。筆者の危惧する「制度信仰」に陥らないか。