武士の家計簿 磯田道史

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

加賀藩の御算用者の出納帳を通して、算術の技術で下級から中級へと進んだ武士一家の息遣いが聞こえてくる。▽身分制の強い江戸時代ではあったが、算術の場面ではそうもいかず、ここが風穴となったこと、▽封建制といっても「蔵米地方知行」という、名目だけの支配だったために領地や領民とのつながりは全くなく、簡単に支配力を失ったこと、▽武士は幕末になると「身分費用」が大きく「身分収入」を上回るようになったこと。「明治維新は、武士の特権を剥奪した。これに抵抗したものもいたが、ほとんどはおとなしくしたがっている。その秘密には、この「身分費用」の問題が関わっているように思えてならない」と。なるほど。武士の家禄は現在の役職ではなく過去の手柄による祖先への付き合い=祭祀も大切、ということで、料理屋と寺という金沢の観光資源になった、というのは、ぴりりとおもしろい。▽武士の妻は、実家との縁は切れない。武士の婚姻は金の貸し借りに結びつくから同じくらいの家格どうしになる。イトコ婚が多かったことも含めて、これもなるほど。結論としては、著者も書いているが、「今いる組織の外に出ても、必要とされる技術や能力をもっているか」なのだろう。「まっとうなことをすれば、よいのである」。それはそうなのだが。