平安貴族と陰陽師 繁田信一

平安貴族と陰陽師―安倍晴明の歴史民俗学

平安貴族と陰陽師―安倍晴明の歴史民俗学

陰陽師が家宅を鎮める役割を持ち「宅神」(しばしば竈神であり、農村では祖先神であったのが農耕と切れ山と切れることで性格が変わる)を鎮める。犯土(三尺以上掘り返す)と祟りのおそれがある土公神を抑えるには陰陽五行説で土に配される色である黄色の牛を引く。▽病気では、普通の病気であれば陰陽師は病因を当てるだけで治療には関わらない(もっとも治療の有効性と安全性を保証する。神の祟りの時は験者による加持は行わず、陰陽師の呪術の出番だが、根本的な解決ではない。根治には神の要求(祀れ、だ)を実現することが必要。仏の祟りの場合は、神の祟りの際には一時的に有効だった呪術の出番はなく、祟る仏を特定させ、仏の目的を実現することで直す。疫病は疫神が起こすので、仏法を嫌う神の祟りを恐れて加持は行われない。一方、疫病は疫鬼が起こすという理解からは陰陽師が「鬼気祭」という呪術で治療にあたる。死者の霊が原因の「もののけ」は、陰陽師ではなく、験者が仏法を背景に加持を行って対処する。『占事略決』に列挙される11種の鬼のうち、「求食鬼」以外は病因と判じられないのは、日本人のイメージの鬼と、中国のイメージの死者の霊との違いから、ほかの鬼が原因と判断したら、「死者の霊」と伝え、治療は験者があたった、と。▽晴明の読みが「せいめい」でないとして、「はるあき」か「はるあきら」か「はれあきら」か、というのは、たぶん、その程度のことも定かでないこと、歴史を紡いでいく上で事実を積み重ねることの困難さを示していよう。