「唐人殺し」の世界 池内敏

「唐人殺し」の世界―近世民衆の朝鮮認識 (臨川選書)

「唐人殺し」の世界―近世民衆の朝鮮認識 (臨川選書)

浅学にして、朝鮮通信使の殺害事件(宝暦14年4月、中官・崔天宗が対馬藩通詞・鈴木伝蔵に槍の穂先で刺殺される)そのものを知らなかった。事件を対馬藩の管理責任とし、以酊庵を通した直接交渉を試みてまでの配慮を見せる幕府に対し、家業を侵害される危機感と、寛大過ぎると朝鮮側をつけあがらせると危惧する対馬藩。そうした支配層の意識を踏まえたうえで、創作の世界を分析する。人参密売をとがめられた逆恨みとしつつ、日本の武徳を持って平穏に解決したとする「宝暦物語」。敵討ちにしつらえ、同じ朝鮮人の血を引きながら、日本人の腹に宿れば優秀、とする「国姓爺」に通じる意識の「唐人殺し」。そしてほとんど異国情緒にしか名残をとどめない「漢人韓文手管始」。これらを通じて、どう理解し、腹に落とすか、そこのところが落ち着かないのではある。