中世の東海道をゆく 榎原雅治

中世の東海道をゆく―京から鎌倉へ、旅路の風景 (中公新書)

中世の東海道をゆく―京から鎌倉へ、旅路の風景 (中公新書)

知的刺激に満ちた本。中世の旅行記をもとに、当時の東海道は引き潮を待って浅瀬を渡ったり川の中を流れに沿ってそのまま歩いたりで、経路も定まっていなかった。つまり古代の官道や近世の街道に比べて国家の管理は格段に緩かったわけだが、なかったわけではないのが、「宿」の存在だ。東海道から山陽道にかけての地域に地名として残っている。北陸方面や熊野詣での経路に存在しないことから人の往来に基づくものではない。著者は「宿」が『将門記』や『陸奥話記』などに武士の館周辺をさす言葉として表れることに注目し、蒙古襲来を控えて鎌倉から九州までの連絡を確保しようとした鎌倉幕府の政策を背景に見る。卓見といえよう。