昭和史の決定的瞬間 坂野潤治

昭和史の決定的瞬間 (ちくま新書)

昭和史の決定的瞬間 (ちくま新書)

味読すべき本。2.26事件の6日前に行われた総選挙に注目している。民政党の勢力伸長と社会民主主義勢力の進出である。議会勢力は自信を回復した。形式的な議会主義正義、と言えないところに、政友会の「憲政常道論」とそれを否定する趣のある美濃部憲法学「天皇機関説=円卓巨頭会議」があった。平和・民主主義対ファシズム、という対立軸がいかに無意味か(言い過ぎだとすれば、当時の状況を見ていないか)がよくわかる。そもそもエピローグにもあるが日中戦争以降の8年間だけを見て超国家主義を軸に判断しても、それ以前、すなわち日中戦争が起こるまでの言論は比較的自由で、決して国民は軍・政府によって盲目にさせられていたわけではない。社会大衆党は反ファッショの要素も強く「広義国防」は、勤労者の生活改善の意味合いからの支持を集めていたのであり、退職手当法の内務省案をさらに骨抜きにした案しか認めない「古いリベラリズム」と共闘せよという日本型人民戦線論に、戦争への危機を感じ取ることが難しい状況でどうして社会大衆党に納得させることができるか(現実には迫っていたわけで、社会改革よりも平和を優先すべきであったわけだが)。民政党から政友会までを巻き込んだ日本型人民戦線内閣としての宇垣内閣の可能性など、刺激と示唆に富んだ一冊。4年9か月前に出た本。不勉強を恥じ入るばかり。