神器上・下 奥泉光

神器〈上〉―軍艦「橿原」殺人事件

神器〈上〉―軍艦「橿原」殺人事件

神器〈下〉―軍艦「橿原」殺人事件

神器〈下〉―軍艦「橿原」殺人事件

実は『白鯨』をイメージしていて語り手の「俺」こと石目鋭二上等水兵は、イシュメールだったわけだ。で、殺人事件の形式をとって著者はこの荒唐無稽な小説で何を伝えたいかというと、うまく理解できたか甚だ心もとない。ただ、軍艦の操船や艦内生活、当時の思想状況などの徹底したディテールを通して、民族とは何か、先の戦争の「英霊」とそれを忘れた戦後の繁栄の空虚さ、閉鎖的な空間で絶望的な状況に置かれた集団の陥る狂気、そういったものは感じ取れた。なにより、一気に読み通してしまった。