恋文の技術 森見登美彦

恋文の技術

恋文の技術

書簡小説の場合、通常と違って登場人物が同じ空間にいない。手紙というメディアの特性である時空のずれが、おもしろいわけだが、携帯や電子メールがこれだけ発達してしまった中、よくぞ著者はなしとげた、と思う。『イニシエーション・ラブ』が、設定を1980年代後半にして留守番電話を重要なツールにしているが、現在ではそれも苦しかろう。さて、片思いを残して能登の研究所に「流された」大学院生が、思いを遂げるべく、恋文の技術を磨こうとして文通に励む。友人・先輩・作家・家庭教師時代の教え子・妹とのちぐはぐなやりとり。出せなかった恋文。自ら「絞め殺したくなる」と反省する試行錯誤は爆笑。