アジア・太平洋戦争 吉田裕・森茂樹

アジア・太平洋戦争 (戦争の日本史)

アジア・太平洋戦争 (戦争の日本史)

シリーズの最後にふさわしい名著。陸軍がソ連、海軍がアメリカを敵としていたことはよく知られているが、戦争目的も、東南アジアの資源地帯を確保すればあとは持久、という陸軍と、アメリカ海軍を早く艦隊決戦に引きずり込もうと、トラック、ラバウルガダルカナル、ミッドウェーと前に出て行く海軍。そしてアメリカも、中国で日本が侵略をすすめる限りでは積極的な妨害はせず、日本もイギリスはともかく、アメリカを戦争相手にする必然性はなかった。それが日独伊三国軍事同盟で、アメリカはドイツからスペインを通じて中南米への侵入を懸念するようになり、日本への圧力を強める。それでも二正面作戦は避けたいところだったのが、ハル・ノートの背景や暫定協定案の存在を知らない日本が、宣戦布告ともいえないあいまいな最後通牒すら間に合わないまま真珠湾奇襲に踏み切り、戦争となる。天皇に各大臣や総長が個別につながる日本の戦争指導体制が、結局、天皇への上奏合戦、そして他を排除できない以上、全員の合意が必要となる無責任なものであったことも、わかりやすく説明している。