北朝鮮帰国事業 菊池嘉晃

北朝鮮帰国事業 - 「壮大な拉致」か「追放」か (中公新書)

北朝鮮帰国事業 - 「壮大な拉致」か「追放」か (中公新書)

「プッシュ要因」と「プル要因」という言葉が印象的だった。すなわち、潜在的な帰国希望のなかで、日本国内の差別や貧困が「プッシュ」であり、北朝鮮の「地上の楽園」との宣伝や社会主義への好印象、韓国・李承晩政権の悪いイメージなどが「プル」である。ところが、貧しいと思っていた日本での状況より、「楽園」のはずの祖国の方がさらに貧しく、たとえ北朝鮮平均よりも恵まれた待遇だったとしてもなんらありがたいものではなかったのだ。それでも北朝鮮金日成にとって、韓国ではなく自分たちを選んだ、というところに南北間で優位に立ち、日韓の接近を阻害し、労働力を確保する、というメリットがあった。そして帰国者が財産を寄託した朝鮮総連は肥え太った。なんとも切ないことだ。