沈黙のファイル 共同通信社社会部

沈黙のファイル―「瀬島 龍三」とは何だったのか 新潮文庫

沈黙のファイル―「瀬島 龍三」とは何だったのか 新潮文庫

瀬島龍三といえば、シベリア抑留をソ連軍と密約した、という陰謀説があるが、実際のところは、帰国についてそもそもソ連軍との「交渉」のテーマにすらなっていない(瀬島は出したのであり、触れていないソ連軍の電報は、通訳の誤りであるとして改ざんするという暴挙に出たのだが)というところだったようだ。結局、何を描きたかったのかが、今ひとつわからない。七三一部隊のくだりは迫力があるが、瀬島と直接関係はなさそうだし、井本証言を基にした服部卓四郎を中心とした警察予備隊構想(結局ウィロビーの指示を受けた服部ラインではなく、吉田茂系がメインの動きだったのだが)も瀬島の抑留中のことであり、関係はなさそうだ。戦後賠償の話にしても、小林氏の存在が大きく感じられる。あまり大物というよりも、虚像だったのでは、という気にすらなってしまう。瀬島を描いたというよりも、要するに、参謀という無責任な官僚を描いた、ということなのだろうか。