アゼーフ ロマン・グーリ

アゼーフ (1970年)

アゼーフ (1970年)

内相プレーベやセルゲイ大公暗殺に向けてのサービンコフをはじめとするテロリストたちの動きや、クリミアでのサービンコフの脱獄などの描写はなかなか。とくに、ブールツェフ裁判は迫力あるし、告発者を葬ってしまおうとする社会革命党の体質に対する彼の推定なども迫力がある。ただ、アゼーフが裏切り者であることを読者周知のこととして書かれているうえに、ディテールについてもある程度知っていることを前提に進み、事件の省略も甚だしく(サーゾノフやドーラの自殺やジリベリベルグの逮捕など)、わかりにくい。さらにロシアを舞台にした小説全体に言える、父称・愛称(サービンコフは「ビクトロイッチ」「ボーリャ」)のわかりにくさに加えて、党内での名(「パーベル・イワーノイッチ」)、偽名(プレーベ暗殺時は「マック・クローフ」、セルゲイ大公暗殺時は「ジェームス・ハーリイ」)と、当然のように使われると、混乱してくる。