記憶はウソをつく 榎本弘明

記憶はウソをつく (祥伝社新書 177)

記憶はウソをつく (祥伝社新書 177)

かつての職場でこんなことがあった。取引先からのクレーム。顧客の住所について、セールスマンが字名までという契約に反して何丁目何番地まで口頭で伝えていた、その場にいた3人がそう言っていると。そんなはずはないと反論し、取引先の役員も理解を示してくれたのだが、その3人とやらが、頑強に「確かに話していた」と言い張る。おおごとになりかねなくなったが、セールスマンがやりとりを録音していたので、それを取引先の役員に聞かせ、一件落着したが、その3人は納得しかねているようであった。あの会社ならやりかねない、という思い(実はその取引先とはトラブルがあった)のうえに、集団(3人)で話しているうちに変容していったのだろう。▽記憶のメカニズムとして、再構成理論「想起するときの視点から過去経験の素材の痕跡をもとに再構成するという、きわめて能動的な作業」が紹介されている。▽人との付き合いでも、自分の記憶と相手のお互いについての記憶が違っていて、それが実際にあったことかどうかはともかく、双方が信じ込んでいるわけだから、表現は適切ではないかもしれないが、甘えていてはいられない、と感じた。▽気になったというか、興味があるのは、本書では触れられていないが、「ファーストインプレッション」との関係だ。「主観的な思いに記憶は左右される」の項にある「職場の上司Cからきつく当たられていたときと、ひょんなきっかけで親しみのある言葉をかけられるようになった今では、その人に対する見方は大きく変わっているだろう」は、いかにもありそうなことだが、強いとされる第一印象とはどのような関係にあるのだろうか。