鳥かごの詩 北重人

鳥かごの詩

鳥かごの詩

急逝した著者の、珍しい現代?小説。東京オリンピック直後、高度経済成長期の東京の新聞販売店に住み込む山形県酒田市出身の浪人生。食と住まいが保証される職場に出入りするさまざまな背景を持った人たち、訳ありげな店主夫婦。そして元ヤクザの孫娘との恋。その住まいである「鳥かご」は天空に向かって開かれているが、そのまま居着いてしまいかねない場所でもある。語り手は、1年間だけそこにとどまり、脱け出した。となると、傍観者の探訪的な嫌らしさ(『ニッケル・アンド・ダイムド』みたいに)が鼻につきかねないが、暴力沙汰も含めたそれなりに壮絶な体験が、そうした嫌らしさを感じさせずに読者を違和感なく物語の世界に引き込む効果をもたらしている。