吉備大臣入唐絵巻の謎 黒田日出男

吉備大臣入唐絵巻の謎

吉備大臣入唐絵巻の謎

絵巻の評価を下げている矢代幸雄パラダイム「唐の朝廷描写の繰り返しという難」は、絵巻に錯簡があったということを前提にすれば、大きく崩れる。▽第一段は、真備を迎えた報告(『日本絵巻大成』での小松茂美の解釈。著者は真備到着の報告としている)ではなく、説話終盤の真備が日月を隠したことによる急を告げていると解す。▽そして、鬼の来訪に続く朝廷での謀議と推測されていた場面は、碁の勝負で敗れた唐側が「野馬台詩」を書こうとしているところだとする。貫頭衣のような白い布(「千早」)や毛皮の服などから。毛皮の服が「宝志和尚」とも。▽そして囲碁勝負に呼ばれた名人たちと推測される場面は日月が封じられたことによる対策としての占いのために呼ばれた術者たちであると。「矢代パラダイム」で批判された繰り返しとしての朝廷の場面はことごとく錯簡となり、緊密な構成としての絵巻の原型が蘇ってくる。▽鈴木敬三の指摘も紹介される。半弓の握りを中央より本はず近くにするなどの日本式が混入され、女性が描かれないなど、絵巻が作られたであろう後白河宮廷での中国文化理解の状況が推定できるとする。