「剛凌強直」。
木戸孝允が伊藤を評した言葉だそうだ。著者は、伊藤がその精神と
楽天な性格をもって「
憲法政治」の定着に努めていった人生を描き出している。ただ
憲法を制定しただけではだめで、現実の国情や政治と合致していないものであれば空文化してしまう。いたずらにドイツ式ではなく、イギリス式まで視野に入れて
憲法制定の作業を高く深い視野で行っていく。ロシアとの関係では、まず紛争当事国と交渉していく、というスタンスでそれはイギリスがロシア・ドイツとの協商を模索し、不可能となった時点で
日英同盟を選択したように、外交巧者のやり方であった。
日露戦争が必然という見方からは
日英同盟は必須であるが、戦争を防ぐことができれば経済も停滞することなかった。第2次伊藤内閣の崩壊後は伊藤体制もほころびが見え、伊藤自身の老いもあって政策実現は進まなくなるが、韓国そして清国へと「
憲法政治」を広げていこうという(そうすれば合理的な思考の持ち主が育って商工業も盛んとなり、利益が出る)伊藤の理想的かつ現実的な生き方は感慨深い。