かげろう絵図上・下 松本清張

かげろう絵図〈上〉 (文春文庫)

かげろう絵図〈上〉 (文春文庫)

かげろう絵図〈下〉 (文春文庫)

かげろう絵図〈下〉 (文春文庫)

 
傑作。大御所・家斉の病気から死ぬまでのおよそ1年間、なんとか権力を維持しようという大御所側近グループと、その姦計を暴こうというグループが繰り広げる暗闘。なんといっても「御隠居」中野石翁が魅力的で、「正義派」はやることなすこと詰めが甘く、御隠居にすぐに見抜かれてしまう。与力や添番などの小悪党も生き生きと魅力的で、奥行きの深さを感じさせる。そして江戸城中の内装の華麗さの描写も、十分、「世界」に連れていってくれる。嫌われ者の水野越前が、「正義派」的に扱われているところが、のちの失脚の描写と合わせて権力の儚さと頼りなさの味わいがひとしおで、また権力に執着しつつもあっさりとあきらめる「御隠居」の大きさがいや増す。ヒロインが比較的あっさり死ぬのも、リアリティがあって悪くない。