天皇はなぜ生き残ったのか 本郷和人

天皇はなぜ生き残ったか (新潮新書)

天皇はなぜ生き残ったか (新潮新書)

中国の科挙を導入せず、実力よりも世襲を受け入れる日本人の心性を、近年の官僚バッシングも援用しておもしろい。天皇は権威だってなかった、と著者は説く。律令に代表される古代天皇は「当為」であり、実体は極めて小さな存在であった。詔勅から官符から官宣旨から綸旨・院宣へ。朝廷の公文書の本質は「はぶく」(武家は「まねる」)であり、その過程で上級貴族が排除され中下級の実力貴族が登用される。「実情としての王」に向き始める。幕府が登場して相対化されると情報の王を志向し、そして武力を否定されると道理を重んじるようになる。統治に励むようになる。しかし室町幕府に圧倒されて衰微する。その芯は、やはり伝統であった。南朝を滅ぼさなかったのは皇位を相対化するための足利氏の選択だった、というのはおもしろい。