なずな 堀江敏幸

なずな

なずな

読み終わりたくない、という物語だ。いつまでも「私」とともに「なずな」の成長を見守っていきたい。しかし、母親が退院し、別れが当然近づいてくる。2週間の約束で預かった赤ちゃんが3カ月を超えるまで、独身の中年男が周りのスナックのママや会社の同僚、そして何より小児科医院の支えで、そして車でなければどこにも行けない地域の道路をめぐる利権めいた話がずっと遠景に置かれ、それでいて建設業者はたんなる悪い人ではなさそうなことがゲートボールや碁会所をめぐるささやかな取材で示唆される。白黒つけてはいけないのだ。小児科医院の出戻りの娘の看護師との交流、彼女の、なずなの母親に礼を言いたいという気持ち、「私」への告白であろう。いいねえ。