中世の借金事情 井原今朝男

中世の借金事情 (歴史文化ライブラリー)

中世の借金事情 (歴史文化ライブラリー)

借りたものは利子を付けて返すことが当然、という近代の考え方が階級分化と行き詰りの根源であり、そもそも普遍的なものではないのだよ、ということを強く主張している。中世日本(古代も)では、利子率こそ高いものもあったが、元本の一倍を超えず(古代は半倍であった)、古代の土地そのものの質入れを禁じた法から質券を抵当に入れ、質流れも永久に流れるのではなく返済すれば元の持ち主に返された。生産力の低い中、税の収納や家政・行事の運営は借金が前提として組み込まれ、そのために債務者も保護するような制度になっていたのだ。質券が楷書で書かれた一人前の文書、借用情が行書で一人前と看做されず、質券と合わせて「連書」となっていたと。中世の金融を近代資本主義の芽生えと看做すような考え方を鋭く批判している。で、借りたものは返さなくては恥、という文化は、室町期に生じ、このころから、債権者と債務者のバランスを取ろうという考え方になっていったのだと。