武力による政治の誕生 本郷和人

選書日本中世史 1 武力による政治の誕生 (講談社選書メチエ)

選書日本中世史 1 武力による政治の誕生 (講談社選書メチエ)

権門体制論は、皇国史観の亡霊とは、なかなか痛快に切り捨てる。たしかに自分で後継者を決められない皇室や公卿よりも、実際に動かしていた武士が主体ではあろう。そして著者は、武士の持つ武力について、極めて慎重に判断していく。はっきり言えば、平安時代はどうしようもないが、それでも武力を抑制していたわけだ。武が抗議し、文に学び、撫民という概念が出てくる。評価は難しいが、それだけ単純にはいかないのだ。「尚武」と「天皇礼賛」との両立が難しくなったことが皇国史観の空疎さにつながったとか、水戸光圀南朝を正統としたのは、それが滅んだことで武士が王となった、と認識していたからとか、相変わらず興味深い指摘が多い。