赤紙と徴兵 吉田敏浩

赤紙と徴兵: 105歳最後の兵事係の証言から

赤紙と徴兵: 105歳最後の兵事係の証言から

児玉隆也も誤解していた(そして尋ねた人物に偉そうに「説教」しようとした)赤紙の配布方法。各市町村役場の兵事係(および委託を受けた人)が届けていたのだ。赤紙の対象はどうやって選ばれるのか、まったく外にはわからないため、兵事係が選んでいると思われたり、怨まれたりする仕事である。そして軍は警察と市町村を使って、徴兵逃れを徹底的に追及するとともに、ふだんから徴兵対象者の健康状態や特業(軍隊で身につけた知識・技能)や特有技能(社会での職業生活などを通じて身につけた技能。運転免許証などは特に重宝されたようだ)を徹底的に把握し、軍隊を作り上げていく。先に読んだ『関東大震災の社会史』で、避難民の把握を徹底した記述があるが、これは義捐金の対象だけでなく、兵役も絡んでいたのではないかとも思われるほどだ。このような精密なシステムを動かすために、各市町村の兵事係は招集を猶予されていたのだ。それにしても、海軍志願兵のために教育機関とも連携して「頭数」を揃えるために勧誘するなどは、ただ赤紙を届けるだけよりもさらに心理的な負担は大きかったろう。戦争協力と言えば「地方」の人間でこれほど大きな戦争協力はないかもしれない。辛い仕事だ。