この女 森絵都

この女

この女

テルチェーンの社長が妻を主人公にした小説を書いてほしいと依頼してくる。仲の悪い兄の妻が回顧録を出したことに対抗する、ということらしいのだが、実はその背景には。依頼されたのは釜ヶ崎の青年。プロレタリア文学を書こうとした大学生の面倒を見たことがきっかけで教授を通じて紹介されたのだ。社長の思惑。その妻の謎めいた行動とその背景にあった半生。それがまた社長の思惑でもあったのだが、「作家」の方にも事情があり、阪神淡路大震災オウム真理教事件などの舞台装置も、ああ、と思わせる。伏線の張りかたも見事で、それぞれの登場人物に深みがある。秀作。