『諸君!』『正論』の研究 上丸洋一

『諸君!』『正論』の研究――保守言論はどう変容してきたか

『諸君!』『正論』の研究――保守言論はどう変容してきたか

「保守」が、日本の侵略すら認めない「右派」へと変化していく過程を追う。林健太郎猪木正道のように、侵略そのものは認める論者もいて論争も掲載された時期もあったが、やがてそうした論は載らなくなってしまう。「敵」を必ずすえ、ソ連から中国、北朝鮮へと。人権については、反共同盟であった韓国のKCIAに拉致された金大中事件には沈黙し国家主権の侵害に触れることはないダブルスタンダード朝日新聞は、安保改定に反対しソ連寄りだったと、論拠を示さずに決めつける。「富田メモ」が明らかになった際には、昭和天皇の真の想いは違うはず、と。東条に責めを負わせて天皇の訴追を免れた東京裁判は、実は天皇にとってありがたく、そして日本人を被害者に置き、真の反省の機会とならなかった、というのは、「東京裁判史観」否定論者には思いもつかない結論ではなかったか。「右派」は、論理や証拠ではなく、願望が真理へとすりかえられ、情念となって罵詈雑言を発する。なんとも空しくそして危険なことだ。本書は、おそらく「右派」には届くまい。しかし、「右派」に転換しつつある「保守」をとどまらせることはできるかもしれない。多様な価値観と伝統を重んじる「保守」の再生を願いたい。