税と社会保障の抜本改革 西沢和彦

税と社会保障の抜本改革

税と社会保障の抜本改革

TPPでも日本の医療制度が善、という前提で議論されているように思うが、果たしてどうなのか。「ティー・パーティー」など日本の社会保障制度の行き詰まりを例にオバマ批判を始めたりしないかしらん。そんなことを感じさせる本だ。▽税金であれば透明性が高い、とは必ずしも言えないのだろうけれど、少なくとも国民にとって負担しているという実感はある。ところが社会保険料であると、複雑な操作が行われ、ブラックボックス化して、関心の持ちようもない。厚生年金と国民年金の「月収9万8,000円の壁」。「基礎年金拠出金」という、2階建てのための「フィクション」を維持するために、厚生年金から国民年金に移転されているのだ。また企業が保険料の半分を負担するとなるとそれが結局は商品の値上げやサービスの低下など目に見えない形で消費者はコストを負担することになる。消費税の例外品目も、結局富裕層も購入するのだから、富裕層も利してしまう。給付付き税額控除にすると、今度は、所得情報をどうやって正確に把握するか、金融資産をどのように把握するかという課題がある。所得税の所得把握の問題は、サラリーマンの控除にも連動し、また配偶者控除は専業主婦の厚生年金第三号被保険者と思想的に連動している。などなど、消費税だけあげればいいというものではない。さまざまな制度が連動して複雑に絡み合っている。実は今までは、なんとか金が回ったからうまくいっていただけなのだろう。逆に言えば、金が回らなくなっているからこそ、わかりやすい、効率的な税と社会保障の体系を組み立て直さねばならないし、単純に不足分を増税するだけでは、この行き詰った制度を改革できまい。