紅梅 津村節子

紅梅

紅梅

吉村昭の闘病を妻・津村節子が描いた私小説。舌癌の発見。結核の大病の経験から病気に恐怖感を持つ夫。針を刺したり玉を入れたりしての放射線治療の痛みに耐えているところに膵臓癌の発見。手術による全摘出でインシュリンが全く出なくなり生活の質は著しく下がる。そして、自ら救命手段を拒否しての死。背を向け息子に語りかける最期に、妻としての自分を拒んだと受け止める著者。結果として夫を救うことができなかった医師たちへの視線は、最善の措置をとったことを頭で理解しつつ、決して感謝にあふれたものではない。吉村昭にして。まだやり残したことがある、という思いは強かっただろう。生きていれば、今回の震災など、どのように受け止めて発信しただろうか。