日本近代史 坂野潤治

日本近代史 (ちくま新書)

日本近代史 (ちくま新書)

日本の近代を「改革(公武合体)」「革命(尊王倒幕)」「建設(殖産興業)」「運用(明治立憲制)」「再編(大正デモクラシー)」「危機(昭和ファシズム)」「崩壊(大政翼賛会)」ととらえ、「改革」から「危機」の時代を俯瞰する。▽「建設」期の唯一の財源である地租についての分析が興味深い。地租は金納固定で物価スライドが全くないから、不況期には財政は健全化し、好況期には地租は実質的に目減りして財政は赤字化する。地租については全国で納税者の間で利害対立が全く存在しないから、増徴は難しい。健全策を取ろうとすればデフレ政策しかない。▽こうした状況で「再編」期、「ばら撒き」を農村部・地方への政策とする政友会が官僚との間で政権をたらいまわしする。原敬の登場だ。二大政党ではなく、あくまで政友会と官僚閥であり、第二党に政権を渡すことは考えない。▽「危機」期、右傾化を鮮明にする政友会に対し、憲政会・民政党は内政面でのリベラルに加え、加藤高明以来の方針から転換して平和志向となり、二大政党の対立軸が鮮明になる。これが、どうも振り子の幅を大きくし過ぎたのか。そして、五一五事件のころから、政友・民政・陸軍・官僚がそれぞれ2派に分かれたうえに右翼と無産政党勢力のあわせて10の派が乱立し、リーダーが小物化し、「崩壊」の時代へと向かっていく。著者は、「三月十一日」を「八月十五日」になぞらえて日本の復活と日本人への信頼を説く主張に対し疑問を呈し、日中戦争勃発の1937年「七月七日」ではないだろうかと警告している。