遺伝子の不都合な真実 安藤寿康

遺伝子の不都合な真実―すべての能力は遺伝である (ちくま新書)

遺伝子の不都合な真実―すべての能力は遺伝である (ちくま新書)

副題「すべての能力は遺伝である」から連想されるのとは違い、遺伝であることを認めなければ、人それぞれの恵まれた状況・恵まれていない状況が、環境や本人の努力などに帰せられ、かえって問題を不公正なものにしている、ということを主張したいようだ。また遺伝で決められた資質が環境によって出現の仕方が異なり、その文化により肯定的にも否定的にも受け止められる(おしゃべりはビジネスの場で、農村で、それぞれ評価は異なるだろう)。なにより、ハンチントン病などの特定の遺伝子が決定的な意味を持つ場合を除き、どの遺伝子がどのように組み合わされて資質となって現れてくるかもよくわかっていないのだ(「勤勉遺伝子」などはないのだ)。親からの遺伝も親そのものとは全く異なる遺伝的資質が出現する場合の方が多いかもしれないし、集団同士の差異よりも集団内の差異の方が大きい。ということは、遺伝子のもたらす差異を謙虚に受け止め、優劣をつけるような社会や文化の仕組みを見直していくということが、方向として大切ということになるのだろう。