たたかいの原像 千葉徳爾

迫力のある本だ。▽武士と狩猟とを比較することから論を始める。手負いで終らせず最後まで命を取る。▽戦場での自害も、何としても目的を達したいが達することができない場合は、敵の手に掛かる(すなわち負け)でなく、自らの手で死ぬ。または相討ちになることで、集団としては負けても個人としては負けていない、とする。▽共生同死、青少年を手元において猶子としていざというときの身代わりや死出の道連れに。▽「切腹の美学」として設けられた章以外でも、切腹に関する逸話は多く、具体的である。上杉藩に伝わり禁止された「差し腹」など興味深い。思い差し(自分を引き立ててくれた人に、ここまで立派に腹を切れるまで成長しましたよ、という感謝の念や、主君から酒席の序列=紙全の序列=はみ出して意を伝える)からの発展とは。20代の若者がいわば典型的な武士的行動(情念で動き、命を軽んじる)を起こすとして描いているようだ。著者は、武士を、一定の自由を保障された荘園武装の任に就く農民、と位置付けているようだが、著者の論理は武士職能論の方がすっきりいくような気もする。

たたかいの原像―民俗としての武士道 (平凡社選書)

たたかいの原像―民俗としての武士道 (平凡社選書)