騎兵と歩兵の中世史 近藤好和

史料や遺品の考察を通じ、武具や戦士の形態の変化を社会変動の要因から説明しているのが興味深い。戦士の形態を「弓射騎兵」「弓射歩兵」「打物騎兵」「打物歩兵」の4つに分類する。▼前九年では弓射騎兵主体で治承・寿永期(平家物語)もそうだったのが、太平記では、打物騎兵が登場し、弓射も歩兵だけでなく馬から下りるようになる。馬上打物と歩射が時代の特徴となる。これを▽常設の城郭戦や三枚打弓による飛距離の増加で弓射歩兵が増えた。騎射の必要性が減少し打物騎兵が登場した。▽また南北朝期の武具の下克上(大鎧が歩兵に、腹巻が騎兵に)を弓矢と打物の使用法や使用者の逆転という観点からもとらえている。▼また、中世武士論(高橋昌明)では、治承・寿永期にはアマチュア(東国武士)が戦闘に参入したことで戦闘法が変わったことを主張したと記憶するが、著者は武具の様式から鎌倉武士は弓射騎兵で南北朝期ほどの戦闘法の変化は起きていなかったとする。▼変化の要因として、▽戦闘目的として、敵の掃討や殲滅(機動力重視)から領地の争奪(拠点を争う戦闘)に移り、▽社会の変動として、「ひとつの土地に複数の権利者がいる職による分散的な支配から一円支配(土地の一括支配)に移行し」たこと、悪党の登場を挙げている。

騎兵と歩兵の中世史 (歴史文化ライブラリー)

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