平家物語 石母田正

平家物語 (岩波新書)

古代史の権威による平家物語論。平家物語を、年代記的記述に特徴があると見て、清盛や義仲、義経のように表面で活躍する人物は描けても後白河法皇や頼朝をうまく描けないのも、背景にあって政治を操るような人物は描けない、という分析はなかなか。また、忠盛の「殿上闇討」も貴族社会では当然のからかいが通じない異分子の参入、という解釈は、なるほどと思わせた。そして、原平家とも言うべき物語に飽き足らない人たち、実際に内乱で運命を翻弄された人たちや影響を受けた人たちの要請もあってさまざまな要素が加わりさまざまな異本の形を含む今の平家の姿が出来あがっていった、という分析は、さすがに歴史家の眼だと思った。