草の輝き 佐伯一麦

草の輝き

草の輝き

タイトルから、ナタリー・ウッドの映画『草原の輝き』を連想したが、やはりそうだったようだ。主人公・柊子は、現夫人だろうか。作者は、作家・広瀬と映写技師・深津とに分かれているようだ。距離をとって柊子を見つめるためにあえて「深津」を創造したものか。文章は相変わらず美しい。自然描写や心理描写も巧み。雪のない地方から雪国に移り住んだ者の、雪に対峙した様子もなかなか。しかし。あのひりひりした佐伯一麦の世界ではない。生活が落ち着いてきた(そのこと自体は、大変に結構で安心なことだ)近年の作品はどれもそうだが、まだ『鉄塔家族』は引きつけるものがあった。ストレートな物言いをすれば、なぜ華やかな仕事を捨てて都会から地方都市へ移り住んだ一女性の草木染め体験記を読まされなければならないのか、というところなのだ。別に読むことを強制されているわけじゃないけど。それから、真壁仁は名を変えなくてもいいと思うが。