渡来人 井上満郎 リブロポート

▽A氏という、きわめて思い込みの強い醜悪な差別意識を持つ人物との手紙のやりとりから始まる。「在日朝鮮人の犯罪の発生率が高い」という根拠のない思い込み(実際は在日アメリカ人の方がはるかに高い)、8世紀になって米の生産性が日本が朝鮮を上回ったという不思議な主張、ヨーロッパの宣教師が日本をヨーロッパと同じと称えた、という脱亜意識。取引先が自分に迎合しているのでは、と気づかずに「商社マンの99%が朝鮮人の人柄が悪いと言っている」とする。
▽筆者は、こうした差別意識の背景にある言葉として、古代からある「帰化」を取り上げる。朝鮮半島からの渡来人にだけ使われ、中国からの渡来人には使われなかった。
遣唐使が往復し、直接中国から文化を学ぶようになった時代、渡来系氏族への差別はあった。新羅との緊張した関係も背景にあったろう。中国皇帝を先祖に持つとする伝承が多いのもそのため。桓武天皇の時期にだけ渡来系氏族出身の公卿が見られるのは、逆に差別があったことを示す。
▽しかし、それは奈良時代とその前後という極めて狭い時間に貴族階級の中だけで行われた差別だった。

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