スパイM 小林竣一・鈴木隆一

スパイM―謀略の極限を生きた男 (文春文庫)

スパイM―謀略の極限を生きた男 (文春文庫)

 
「一大犯罪シンジケート」となった戦闘技術団。銀行ギャングは有名だが、美人局やエロ映画などの「エロ班」など呆れるばかり。カンパ網が機能しなくなった後、いったん肥大化した党組織を維持するために、良家の子女が家から現金を持ち出す拐帯などの「上品」な手口では足りずに手を染めてしまう、革命のためならなんでもありの退廃した心理が、追い詰められた党員たちにはあったのだろう。そのこと自体にMの誘導はなかったろうが、党の委員長があえて距離を置き、任されたトップが警察のスパイという組織が、当事者の自覚はともかく、堕落していくのは必然かもしれない。Mの心理の分析として、山崎正和の「二人の主人に仕えるのが最も自由に生きる方法かもしれない」というのは、鋭い。