金属と日本人の歴史 桶谷繁雄

金属と日本人の歴史 (講談社学術文庫)

金属と日本人の歴史 (講談社学術文庫)

金や銅についての記述もあるが、なんといっても主要部分を占めるのは、鉄である。▽鉄は炭素の含有量により柔らかくも固くも脆くもなる。そのために、脱炭・滲炭をどうするか、焼き入れ・焼き戻し・焼きなましなどの手法で望む固さと粘りのある材料を入手する手法、日本刀では、炭素量の異なる鉄を刃鉄・皮鉄・心鉄と組み合わせ、鍛錬によって滓を微細に均等にし部分的に硬さが違うようにして刃こぼれを防ぐ。戦国期から輸入された南蛮鉄は燐分が多く不向きだが、舶来崇拝思想から使われたのではないかと推測されている。▽鐘の作り方では、「笠」「乳(ち)の間」「池の間」「駒の爪」と部分ごとに必要な肉の厚みが異なる。気泡や鬆(す)をできるだけなくさなければならない(水分の多い人間の人身御供などとんでもない)。外型と中型(空気が抜けやすいようにする)とを粘土で作り、10個・20個とある溶解炉から溶かされた合金がいっせいに型に流される。鐘楼の近くで行われたであろう作業は、さぞ壮観であったに違いない。