一銭五厘たちの横丁 児玉隆也・桑原甲子雄

一銭五厘たちの横丁 (岩波現代文庫)

一銭五厘たちの横丁 (岩波現代文庫)

「朝早く、勤めは固く色薄く、食細うして心広かれ」。名前や記録の残る学徒出陣と異なる、市井から出征した兵士に送るために撮影された写真をもとに、30年後の下町(三ノ輪・竜泉)を歩く「私」。時代の「虚器を擁する者」がラッパを与え響かさせ、その音色に素直に酔って踊り、「運がいいから」という楽天の上澄みの下にある「うねり」には漠たる不安があるのだ。ときどき出てくる昭和16年の「秘密の招集」は、この日読んだ『在郷軍人会』でも出てきた関特演関連だろう。ただ、「おたんこなす」NHKのプロデューサーに「一銭五厘」の意味を尋ねられて「召集令状のハガキが一銭五厘でありまして」って、答えたのはどうだろう。これが比喩だということは、ほぼ常識らしいのだが、児玉氏は知らなかったのだろうか。