「赤旗」地下印刷局員の物語 林田茂雄

著者の不屈で楽天的、そして強靭な生き方は素晴らしいと思う。人間的な関係を印刷所と築き、未決や下獄してからは仏典を読んで、釈迦が「人間が苦悩と迷蒙から解放される道は、仏に祈ることではなく、客観的な心理を明らかにし、その心理に従って生きること」を説いていること、物事の考え方が弁証法的であることを知り、しきりに勉強する。教誨師を東西本願寺で占めている刑務所は、著者が仏典を求めると「転向近し」かと喜んで便宜を図ってくれたという。また、取り調べの刑事や看守の非転向者に示す共感とともに、転向者の抱いているであろう罪悪感にも思いをはせている。そうした著者の姿勢は、生きがいに対する若者の態度への苦言ともなってあらわれている。共産党の人が書いたものでこんなに人間的な大きさを感じさせられるのは珍しいのではないか。