中大兄皇子伝上・下 黒岩重吾

中大兄皇子伝〈上〉 (講談社文庫)

中大兄皇子伝〈上〉 (講談社文庫)

中大兄皇子伝〈下〉 (講談社文庫)

中大兄皇子伝〈下〉 (講談社文庫)

果たして「吾(即位後は朕)」がどの時点から語っているのか(死ねば土くれになる、と言っているのだから、死後のことがわかっていては不自然なのだが)、わかりにくいが、まあそこは置いておいて。理想のためなら冷酷に邪魔ものを排除し、ついでに欲望のためなら理想実現にこじつけて排除する、改革の鬼とでもいうべきか。律令国家の唐の隆盛や国際情勢から危機感を強めて改革を急ぐが、新羅対策では、感情的で伝統できな反新羅策と、唐への障壁としようという新しい政策とが提示されている。これは、奈良朝でも同様のことであろうし、古代律令国家とは、対外緊張を前提とした軍事国家である、とすれば、その前提条件である天智政権の性格を小説の中でよく表現しているのではないか。