軍国美談と教科書 中内敏夫

軍国美談と教科書 (岩波新書)

軍国美談と教科書 (岩波新書)

戦前の教科書国定制は5期にわたるが、ほぼ通して採用されていた「強いテーマ」「強い素材」と一期だけで消えていった「弱いテーマ」「弱い素材」とがあった。たとえば忠君愛国だが、忠君と愛国とは必ずしも同義ではなくなっていること、個別のヒーロー(広瀬中佐や木口小平など)は、集団戦の「近代化」では不要となること、それでも乃木将軍は強かったこと、など。テーマとしては強くても実在の人物となると美談として取り上げた後、不遇だと具合が悪くなる「一太郎やあい」のモデルや、「水兵の母」のモデルなど。児童たちの実情にあわなければ教育効果(「陶冶性」)がないし、実情に近付けるとまた現実との齟齬が生じやすくなる。また三勇士での記述「出かせぎ型地域主義」の表現や、三勇士のなかに被差別部落民がいたという話が広がった、そのことと解放運動やプロレタリア運動との関係についての記述は興味深かった。